80代女性「不動産屋6件に断られました」。高齢者の賃貸入居の今

80代女性「不動産屋6件に断られました」。高齢者の賃貸入居の今

高齢者は賃貸への入居を断られるケースが多いといわれる。まだまだ元気な60代や70代でさえも……。現代の高齢化社会においては見過ごせない現状だ。実際に断られた人の声と、あえて高齢者の賃貸入居をサポートしている不動産会社の取り組みを踏まえ、高齢者の賃貸入居の現状とこれからを考えてみよう。
自由に暮らしたい母。でも不動産会社は「80代は無理」の一点張り

岐阜県可児市に住む女性・Uさん(当時64歳)は、2017年に、京都府に1人で住む母(当時88歳)を近所に呼び寄せようと考えた。

「母が京都で住んでいた家が立ち退きの対象になって。本人の希望で、当初は京都で探していたんです。母はそれまでも自立して一人で生活していましたから、私自身、心配していませんでした。当時、母は便利な街なかに住んでいて、近所まで、バスはもちろん自転車に乗って出かけていたぐらいです。

家を探そうと思い、京都の不動産会社へ電話したところ、『88歳?その年齢では借りられませんよ』の一点張りで、驚きました」

もう1社に電話したところ同じような対応で、物件を紹介してもらえる様子はなかったという。「娘の私の年齢である60代でも貸せないくらいなのに、まして80代なんて……という対応でしたね」

そこでUさんは「何かあったらすぐに駆けつけられる私の家の近所であれば、可能性があるのでは」と考えて、母を説得。岐阜県内に呼び寄せることにした。

「自宅の近隣で、母の一人暮らしに良さそうな物件をインターネットで探し、不動産会社へ電話をしました。どの会社の担当者も母の年齢を話すと驚いていて、4社に『ご紹介できる物件はありません』と断られました」

母の立ち退きが迫っていたので「物件が見つからなければ、母には悪いが同居で納得してもらおう」と考えていたUさん。

それでも懸念していることがあった。「岐阜で同居した期間があったんです。そうしたら、いつも身の回りのことを自分でしていた母が、何もしなくなってしまって……。わが家はオール電化なのですが、母の住まいはガス。『使い方が分からない』という理由で、お茶も淹れず、外出もしなくなった様子を見て、これではすぐに心身が弱ってしまうのではないかと心配になりました」

シニアライフサポートの、年齢別の契約者数。申し込み時で76~80歳が最も多い(データ提供/ニッショー)

シニアライフサポートの、年齢別の契約者数。申し込み時で76~80歳が最も多い(データ提供/ニッショー)

契約者の年齢別集計。申込者の最高年齢は96歳(データ提供/ニッショー)

契約者の年齢別集計。申込者の最高年齢は96歳(データ提供/ニッショー)

7社目で、「高齢者サポートシステム」がある物件と出合う

諦めずに、計7社目となる会社に電話をしたUさん。その物件は、家から徒歩10分、車を使えば2分の場所にある、バリアフリーの1LDK。キッチンには母が希望するガスコンロがあった。「インターネットで室内の画像を見ましたが、明るくてキレイでした」

「母は88歳ですがいいですか?」と不動産会社のニッショーに確認すると、「ここはシニアライフサポートというシステムがある物件なので、サポートに入っていただくことを条件に、入居していただけます」と担当者から説明されたという。

「セコムを含めたシステムの利用を条件に、高齢でも賃貸物件が借りられると聞き、納得しました。ありがたく思い、すぐにお願いしました」

このサポートサービスを紹介してくれた不動産会社ニッショーの「シニアライフサポート」は、今ある持ち家や賃貸住宅に、大家側と入居者への安心をプラスする高齢者見守りサービスだ。

具体的には、次の3つがセットになっている。
(1) 入居者の毎日の安否と体調を電話で確認。その結果は家族や指定の連絡先へメールで知らせる。

(2) 防犯センサーや煙センサーが異変を感知し、もしものことがあればセキュリティサービスの「セコム」が駆けつける。

(3) 入居者がペンダントタイプの「救急ボタン」を押せば、セコムが駆けつける。また、「ライフ監視センサー」で、一定時間動きを感知しなかった場合はセコムに通知される。

「シニアライフサポート」のキット。賃貸物件の場合は、防犯センサー3カ所までで初期費用が3万円(税別)、その他に毎月の家賃+月額料金6千円(税別・※ニッショーの管理物件の場合)となっている。セコムの駆け付け要請、緊急対応費等に追加料金は発生しない(写真提供/ニッショー)

「シニアライフサポート」のキット。賃貸物件の場合は、防犯センサー3カ所までで初期費用が3万円(税別)、その他に毎月の家賃+月額料金6千円(税別・※ニッショーの管理物件の場合)となっている。セコムの駆け付け要請、緊急対応費等に追加料金は発生しない(写真提供/ニッショー)

「元気な」シニアの一人暮らしをサポートするために

このシステムの開発を主導した名古屋の賃貸住宅仲介会社、株式会社ニッショーの佐々木靖也さんは、開発の背景をこう話す。

「賃貸住宅へのシニアのご入居が難しくなっている背景には、体調面や事故の心配から、物件のオーナーさんがシニアの方を受け入れづらく感じ、あらかじめお断りするという事情があります。入居者の孤独死への不安を持つ方も多いようです。民間の賃貸業者としては、オーナーさんの意向に添うことが原則ですから……」

立ち退きや、伴侶を亡くしたので広すぎる家を売却したい……などの理由によって、一人住まいの賃貸物件を探すことになった高齢者が、「当然借りられる」と思って不動産会社を訪ねると、借りられずショックを受けるという事態が続いていた。

「私たちには、賃貸業者として今のままではダメだという思いがありました。オーナーさんにも入居者さんにも喜んでいただけるサービスを考えようと、2013年にプロジェクトチームをつくり、2014年には具体的に動き出しました」

当時は、サービス付き高齢者住宅(サ高住)が話題となり、建築ラッシュでもあったころ。

「しかしサ高住は、元気なシニアにとってはあまり意味がないし、私たちが取り扱っても従来のオーナーさんにメリットがない。私たちは『国の補助金に頼らず、すでに管理や委託を受けているオーナーさんの物件を活用して空室を埋めつつ、シニアの方の見守りができる新しいサービスを考えよう』と思いました」

これは「人命に関わること。あまり利益が出なくても、やらなくては」という社長の思いがこもった事業だったという。

「シニアライフサポート」の開発を主導した、営業本部副本部長の佐々木さん(写真撮影/倉畑桐子)

「シニアライフサポート」の開発を主導した、営業本部副本部長の佐々木さん(写真撮影/倉畑桐子)

「シニアライフサポート」の登録物件は、現在、東海3県で3500棟。
「オーナーさんには負担がありませんから、シニアの受け入れに協力してもらえませんかと説明すると、多くの人に賛同していただけます」と佐々木さん。

シニアライフサポートの間取り別契約グラフ。持ち物が多いケースや、子や孫に泊まってほしいと考える人も多く、予想に反して2K以上の広さへのニーズも高かった(データ提供/ニッショー)一人暮らしの入居者にハリがある生活を

「大多数の、元気なシニアの入居希望者の問題を解決しながら、オーナーさんの空室を埋めて、win-winのプロジェクトになった」と手応えを語る佐々木さん。

システムを運営し始めてから、「シニアの入居者さんによってオーナーさんが困ったという事例はありません」と話す。

「シニアの入居者さんは、まず家賃を滞納することがありませんし、住まいに関するルール違反もしません。苦労して見つけた物件だからです。また、70代くらいの人は、今後のライフスタイルの変化があまりないため、一度決めると長く定住されます」
それは安定した入居者だとも捉えられるだろう。

「住んでから家の中で倒れたという入居者さんもいますが、近くにあった『救急ボタン』を手繰り寄せてボタンを押し、命が助かったという例があります。浴室での事故を予防するため、防滴の『救急ボタン』を、浴室のドアにかけて入浴している人も多いようです」

住んでから入居者が亡くなった事例もあるそうだが、「ご遺族から『早期発見によって、きちんと見送ることができた。ありがとう』とお礼を言われました」と振り返る。

孤独死などを恐れて高齢者の入居が断られるケースも、サポート体制が整えば、状況を変えられるのではと考えさせられた。

オーナー向けイベントで、見守りサービスが多くの人の関心を集めた(写真提供/ニッショー)

オーナー向けイベントで、見守りサービスが多くの人の関心を集めた(写真提供/ニッショー)

前出の入居者の娘・Uさんの母は、現在91歳。希望通り自由な生活を謳歌し、Uさんは徒歩圏内である母の家に、おかずの差し入れなどを持って毎日顔を出す。

「毎朝決まった時間に、母の安否確認結果のメールが送られてきます。母とは毎日会うのですが、『今朝もちゃんと起床して、元気なんだな』と思うと安心できます」とUさん。91歳の母が近居で一人暮らしていることは、近所の人からも感心されているという。

「ある朝母の家で、安否確認用の音声案内の電話を一緒に聞いていると、毎回流れてくる内容が違うことに気がつきました。『明日は十五夜ですね』などと言われると、母も電話に向かって返事をして、私にも『お団子を食べなくてはね』と話していました。そんな日々のやりとりも、張りになっているようです」とUさん。

「近所で母が望む自由な生活をさせてあげられていることをうれしく思います。こういった見守りサービスがあれば、この先、自分自身や子どもたちも安心していられますね」と、イキイキと話してくれた。

取材中、隣県で一人暮らしをする70代の身内のことが思い浮かんだ。それを話すと佐々木さんは、「戸建でもシステムは後付けできます。毎日、数名にメールをすることも可能ですから、身内の方で費用を分担しては」。優しいアドバイスにホロリとした。

物件のオーナー自体が高齢となり「自分の家に付けたい」という申し出も多いという。オーナーと入居者本人、そして家族。誰にとってもメリットが大きいwin-winの取り組みは温かい。

高齢化社会において、高齢者の賃貸入居の需要はますます増えていくだろう。「高齢者だから」と一様に断られるのではなく、「どうしたら入居できるのか」を考えていける社会になることを願う。そして、誰もが自分らしく暮らせるよう、一人ひとりが自分ごととして考えていかなければと思う。

●取材協力
・ニッショー

引用元: suumo.jp